縷紅草










「ケント」
「…」
「ケントー」
「…」
「ねぇケントってば」
「…」
「ケント隊長!」
「…何だ」
ケントは振り返ることもせず、書類に目を向けている。
「…もう、すっかり仕事の方ばっかり!少しは俺の方見てくれたって」
「見たら何かメリットがあるのか?」
「癒されるでしょ」
「……馬鹿者」
余計に呆れられ、更に伸ばされた書類に、セインの視線も集中した。
「ケントの馬鹿…」
そっと呟いたセインの声も、書類に集中していたケントの耳には届くことがなかった。



それから暫くして、新しく入隊となった新米騎士たちを迎えることになり、キアランの城も大忙しとなった。
ウィルは新たに弓兵の編成を頼んであったし、ケントは同じく騎士部隊の編成に身を砕いていた。
フロリーナにも、ペガサス達の世話や、適性を見てもらっている。
そして、セインはといえば。
「俺、新兵の鍛錬につこうか?」
セインとて、意外な申し出ではあったが仕事に手抜きをするような男ではない。
「なら、頼む」
「まっかせといて!」
セインは一見軽そうな男だが、実力で言えばケントと同格の騎士である。
副隊長らしからぬ行動が時折目につくと言えばそうだが、真剣な彼は目を見張るものがあるのだ。
実際、セインについてもらった部隊はめきめきと力をつけているようであった。

「セインさん、凄いですねー。流石、人の面倒を見ることに関しては一流というか」
ウィルも、関心したように呟く。
「ああ、ここのところ、ずっと彼らについてやっているようだ。セインの方がばてなければいいがな」
「はは、確かに。俺も思いのほか疲れましたもん。…たまには労ってやったらどうですか?」
「ん……そうかもしれんな」
ケントはううむ、と考える。
たまには休憩を自分から入れてやるのもいいだろう。
そう思い、ケントはセインの元へ向かった。




「セイン!」
「隊長!如何なさいました?」
「いや、セインはどうしているかと思ってな」
すると、その騎士は嬉しそうに喋った。
「セインさんなら、新米の騎士の我々には人気がありますよ。指導はしっかりしているし、面倒見が良いので」
表情から見ても、それがお世辞でないことがよく分かった。
「そうか……」
「副隊長は、あちらの部屋に今いると思います」
「ああ、ありがとう」
(そうか、セインは相当上手くやっているのだな)
自然とケントは微笑むのを感じていた。

「セイン」
「?……どうぞ」
扉を開けると、あっと驚いたようにセインは目を見開いた。
少し、痩せただろうか。まあ、あれだけつきっきりで居れば無理もないかもしれない。
以前より僅かだが伸びた後ろ髪を、軽く束ねていたセインは、どこか雰囲気が変わって見えた。
「珍しいな、お前から来るなんて。ま、座ってくれよ」
大したものはないけど、とセインは付け足した。
「いや、お前の様子を見に来ただけだ。…よくやっているみたいだな」
「まあね!俺にかかればこんなもんだよ」
そう言いながら、壁に張った紙やら何やら、いろいろと目を通している。
「……その、たまには…少し、休んだらどうだ?」
おずおずと口を挟んだケントに、セインはそちらを見ずに答えた。
「んー気持ちはありがたいんだけど、さ。もう少し、あいつらのこと見てやりたいんだ。…悪いな」
壁のメモに何かを書き込みながら、セインは言う。
「それで一段落したら、また一息入れるからさ」
「……」
「副隊長!」
「ああ、今行く!…またな、ケント」
ばっと身を翻し、いつものようにケントに触れることもなく部屋を出ていくセイン。
ケントはその姿を目で追い、どこか寂しい気持ちがした。
仕事をしっかりとこなす彼は、見違えるようで喜ばしい筈、なのに。




(…なんなのだ、)


これでは、まるで。




(先日の私と立場が逆じゃないか……!)
 








End


仕事をしなけりゃしないで怒るのに、しっかりやっていればやってるで複雑なケント。
セインって変なとこで無自覚なんだと思います。特に自分のことに関しては 笑
さり気無く、後ろ髪を束ねてたりしたら私が悶えます(爆。
結局付かず離れずの関係が一番良いのかな。うんむ。

ちなみに、タイトルは「るこうそう」と読みます。真っ赤な花。 2013,7,8









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